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東京高等裁判所 昭和42年(う)825号 判決 1967年7月19日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人三浦久三郎の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。論旨は、

本件については、昭和三一年一〇月六日大阪住吉税務署長から被告人に対し通告処分がなされ、その後納入告知、督促、交付要求等の手続は全然行われていないから、会計法第三〇条ないし第三二条の諸規定に照らし、本件物品税の徴収権は、右通告処分の翌日から起算し五年を経過した昭和三六年一〇月七日をもつて時効により消滅し、右起算日に遡つて存在しなかつたことになり、従つて本件公訴が提起された昭和三六年六月二八日にも右徴税権はすでに存在していなかつたものというべく、右の如く徴税権が消滅して存在しなくなつた以上、その存在を前提とする刑罰権も消滅したわけであるから、右公訴提起は不適法ということになるのに、原判決が、刑事訴訟法第三三九条第一項第二号による公訴棄却の決定をなさず、本件を有罪として認定し処断したのは、法令の適用を誤つたものである、というのである。

そこで、調査するのに、物品税を逋脱し又は逋脱しようと図る犯罪の成立及びこれに対する刑罰権の発生が物品税徴収権の存在を前提とするものであることは、所論のとおりと考えられるが、一旦右のような犯罪が行われこれに対する刑罰権が発生した以上、その後における右刑罰権は徴税権と別個独立に存続し或いは消滅するものでつあて、両者必ずしもその消長を共にすべき性質のものではない。例えば、徴税権については納入告知、督促等が行われて時効が中断し、(国税通則法第七二条第七三条、同法施行前においては会計法第三〇条ないし第三二条参照)それが有効に存続している場合においても、刑罰権の方は公訴時効の完成(刑事訴訟法第二五〇条参照)により消滅してしまうことがあり得るし、逆に徴税権は時効完成又は税金納付等により消滅した場合において、刑罰権は依然存続し、通告処分或いは告発及びこれらに続く検察官の訴追並びに裁判所による科刑等が行われることもあり得るわけである。本件についてこれを見るのに、本件各違反事実(昭和三〇年一〇月三一日から翌年九月三〇日に及んでいる)については昭和三一年一〇月六日大阪税務署長から被告人に対し国税犯則取締法第一四条第一項による通告処分がなされていることが明らかであるから(記録第五四一丁ないし第五四三丁、及び第五五一丁)、同取締法第一五条により右に対する公訴権の時効は中断されたものというべく、而して、本件公訴は、右中断の翌日から起算し刑事訴訟法第二五〇条第四号(本件の罰条として適用されている昭和三七年三月三一日法律第四八号による改正前の物品税法第一八条第一項第二号の法定刑は五年以下の懲役若しくは五〇万円以下の罰金又は両者の併科となつている)所定の五年以内である昭和三六年六月二八日に提起されたものであるから、右公訴提起は所論のような徴税権の消長如何に拘らず適法有効である。従つて、原裁判所が本件につきいわゆる実体的審判を行い有罪と認定してそれぞれ科刑したのは固より適法であり、所論のような公訴棄却若しくは無罪(又は免訴)等の裁判をなすべきものではない。この点に関し原判決の法令適用の誤りを主張する右論旨は、独自の見解に基づくものであつて、理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却することにして、主文のように判決する。(吉田信孝 大平要 伊東正七郎)

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